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Channel: ゆめかたつの曲解的漫画考
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【黒バス】「お好み焼き回」を徹底解剖してみる

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今回は、『黒子のバスケ』5巻収録の、「お好み焼き回」を徹底解剖していきたいと思います。
本誌ではWC決勝戦前夜で盛り上がっているというのに相変わらず全く時流に乗れてないKYっぷりです。
 

■「お好み焼き回」概要
激戦ののち見事、王者秀徳を破り、IHへの駒を進めた誠凛高校バスケ部。
試合後に立ち寄ったお好み焼き屋さんで、同じくIH予選を観戦しに来ていた海常バスケ部の笠松と黄瀬に遭遇してしまう。
席数の都合で相席となってしまった、笠松・黄瀬・火神・黒子の4人。
なんとなくきまずい雰囲気の中、つい先程打ち破った対戦相手でもある秀徳バスケ部の緑間・高尾も店入りし、さらに高尾の企てにより、黒子・緑間・黄瀬・火神という超豪華な面子で鉄板を囲むハメとなる。

 
▼上手左より緑間・火神。下手左より黄瀬・黒子。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「戻っただけだ」「三連覇する少し前にな」
お好み焼きが焼きあがってもなお、不機嫌に腕を組んだまま箸をつけようとしない緑間。
 
「緑間っちホラ、コゲるっすよ?」と促す黄瀬に対しても、「食べるような気分なはずないだろう」と言い放ち、さらには、「むしろオマエがヘラヘラ同席している方が理解に苦しむのだよ」「一度負けた相手だろう」と逆に非難めいた言葉を浴びせます。
 
「そりゃあ」「当然リベンジするっスよ」「インターハイの舞台でね」「次は負けねぇっスよ」目をキラキラさせながら挑戦的に言いきる黄瀬
そして火神もまた「望むとこだよ」とイキイキした表情で応酬します。
 
緑間はそんな黄瀬の様子を凝視したのち
「前と少し変わったな」「目が・・・変なのだよ」
と言及します。
 
すると黄瀬は、
「まあ・・・黒子っちたちとやってから」
「前より練習はするようになったスかね」
「あと最近思うのが・・・」
「海常のみんなとバスケするのがちょっと楽しいっス」
うっすら微笑みながら語ります。
 
「・・・・・・どうも勘違いだったようだ」「やはり変わってなどいない」
「戻っただけだ」「三連覇する少し前にな」
おもむろにお好み焼きを口に運びつつそう言い放つ緑間。
 
さてここで気になるのは、
 
・「前と少し変わったな」の「前」とはいつの時点を指すのか
・「三連覇する少し前」とは具体的にいつごろを指すのか
・何を持って「三連覇する少し前に戻った」と言っているのか
・緑間は「前と変わった黄瀬」と「三連覇する少し前に戻ってしまった黄瀬」どちらを高く評価しているのか
 
というところです。
 
順番に分析していきます。
 
■「前と少し変わったな」の「前」とはいつの時点を指すのか
入部から全中までの黄瀬は大きく分けると以下のような段階で変化を遂げています。
まず、入部当初の黄瀬は教育係の黒子に二軍同伴時もユニフォームを賭けた点取り試合をふっかけたり、チームで闘うことよりも、自分の上達を楽しむばかりのワンマン選手でした。
が、黒子から「大事なのはチームでなにができるかを考えること」と諭され、さらに黒子の私心のないプレイスタイルを目の当たりにしたことで、その「勝利への純粋さ」に感銘を受けた黄瀬は、「自分が楽しむ」ことを追求するだけではなく、「チームを勝たせるために自分は何をすべきか」ということを模索しだすようになるのかと思われます。
 
が、その後、強くなりすぎた帝光レギュラーたちは、「勝つこと」が当たり前となり、黄瀬自身もまた「勝利を追いかけること」の楽しさはいつしか失せ、それでも試合中のモチベーションを保つために「勝つ」と分かりきっている試合の中で「どうやったら試合を楽しめるか」という発想になっていきます。
それが、中二全中後の「身内同士の賭けバスケ」へと発展したりするのですが、このころにはもはや以前の「勝つこと=楽しい」という気持ちから、「勝つこと前提」の中でそれぞれの楽しみ方を模索するようになっていきます。
 
緑間の言う「前」というのは恐らく引退直前の「勝つことが当たり前」となった中で「勝利=楽しい」という気持ちが失われ、うつろな目になっていったあの時期の黄瀬を指しているものと思われます。
「前(=舐めプ時期)と少し変わったな」とは、敗北を知り、そこから這い上がることを学んだ黄瀬が見せた今までにない目の光を緑間は見て取ったことによる台詞だったのかもしれません。
 
海常バスケ部との出会い、そして誠凛との練習試合で生まれて初めての「敗北」を味わったことで、海常エースとしての自覚と勝利への渇望が芽生え、それはこれまで「勝つことが当たり前」だった帝光では負うことのなかった「エースとしてチームを勝たせる責任感」を持つようになった黄瀬への評価だったのかと思われます。
 
■「三連覇する少し前」とは具体的にいつごろを指すのか
これは、三連覇する「少し」前という言い方が混乱を招きますが、恐らくまだ「勝つこと=楽しい」と思えていた時期、黄瀬が例の「風の音を聞く」以前の時期を指しているものと思われます(三連覇する1年前)
つまり、黒子との二軍同伴を経てから白金監督が倒れるまでのあの時期です。
 
■何を持って「三連覇する少し前に戻った」と言っているのか
「リベンジ」を決意した黄瀬の目を見て、一瞬はその中に宿る「チームを勝たせる」というエースの矜持を見て取った緑間ですが、そのあとの黄瀬の台詞「あと最近思うのが・・・」「海常のみんなとバスケするのがちょっと楽しいっス」というのを聞いて、緑間は鼻白みます。
帝光では、赤司主将采配の下、自分のバスケを楽しく模索していればいいだけの立場だった「下っ端」黄瀬がようやく海常チームのエースとして「楽しむ」ことよりも「勝利を導くことへの責任感」を身につけたのかと思いきや、またも「楽しい楽しくない」を基準に語り出してきた、そのことに対する「三連覇する前に戻っただけ」という評価なのかと思われます。
 
■緑間は「前と変わった黄瀬」と「三連覇する少し前に戻ってしまった黄瀬」どちらを高く評価しているのか
上記のことを踏まえると、「戻ってしまった黄瀬」よりも、「変わった黄瀬」を緑間が期待していたのかなと考えられます。
緑間自身、百戦百勝をスローガンとする帝光では「副主将」の立場から、「楽しい楽しくない」よりもなにより「勝ち続けるたけに何をすべきか」ということを最優先に考え、私心を捨て、主将の赤司と共にチームを引っ張っていかねばならない立場でした。
だからこそ、仮にも海常ではエースという立場の黄瀬がその役割を自覚せず未だに中学時代と同じように「楽しい楽しくない」を基準に語ってきたことに対し、若干の失望を込めた「戻っただけだ」という表現だったのかなという印象です。
 
「・・・何も知らんくせに知ったようなこと言わないでもらおうか」
「楽しいからやってるに決まってんだろバスケ」と言い切る火神に対し、鋭い視線を向け言い放った緑間の台詞です。
「何も知らんくせに」というのは恐らく、「勝つことが当たり前」という状況を強いられてきた帝光時代のことを指しているのかと思われます。
 
緑間の黒子への評価「アイツのスタイルは認めているし尊敬すらしている」
緑間にとって「黒子のスタイル」の尊敬すべき点とは恐らく、徹底した「チームを勝たせるためのプレイスタイル」であり「チームの中での自分の役割」をよく理解した上でのスタイルであるということです。
 
そしてそれは緑間自身が帝光時代に赤司の参謀として、自分に課してきた「自身の役割に人事を尽くす」ということにも繋がるのかと思われます。
 
だからこそ、黒子のスタイルにシンパシーを感じ、認めているものの、黒子の思想的な部分「楽しくなければ勝利じゃない」というスタンスは気に入らないという風になるのかなって思います。
緑間vs黒子、水面下での攻防
黒子としては、火神や敗北後の黄瀬の「バスケ楽しい」という気持ちを失って欲しくないと願ってます。
 
だから、緑間のいう「楽しい楽しくないでバスケをやってない」思想を植えつけられることはなんとしても忌避したいところなのです。

とここで思いがけず高尾のお好み焼きを頭からかぶり、話の腰を折られた緑間、一時戦線離脱で
一気に黒子のターンです↓(「高尾君、ファインプレイです」by黒子)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「火神くんの言うとおりです」「つまらなかったらあんなに上手くなりません」
 
黒子っち、緑間不在の隙に火神&黄瀬への「楽しいバスケ」布教に余念がありませんww
 
黒子といえばWCの海常戦でも、「黄瀬くんにかつて、チームのために戦える選手になって欲しいと願っていた」と明言するところなど、「教育係は柄じゃない」などといいつつ、黄瀬教育に関してかなり明確なビジョンを持って取り組んでいたことが窺えます。
 
「楽しくなければ意味なんてない」
 
これはある意味、エースや主将という重責を担ったことのない「シックスマン」だったに過ぎない黒子の詭弁なのかもしれず、「楽しい楽しくない」でバスケをやるべきではないという緑間の言い分もまた真理なのかもしれません。
 
しかしたとえ詭弁と捉えられようとも、黒子は2人に伝えたかったのです。
たとえこの先どれほどチームのエースとして「勝利」への重責がのしかかろうとも、「楽しい」という気持ちを失わないで欲しいということを。
 
「倒れることなど何も恥ではない・・・・・・! そこから起きあがらないことこそ恥・・・!」
WC洛山戦にて。
かつて帝光時代、「勝つことが全て」という理念を誰よりも共有したはずの赤司に対して発した緑間の名言です。
 
この台詞は、もしかしたら黄瀬の「リベンジ」宣言とそれを受けて立つ火神のアツいやりとりを見て緑間なりに感化されたがゆえのものだったらいいなあって、密かに思ってたりします…
 
「あの人のバスケは」「好きじゃないです」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
かつての相棒でもある青峰のバスケを「好きじゃない」と言い切る黒子。
それを意味深な沈黙で受ける黄瀬のコマ。
 
この時点で黒子は、強すぎるがゆえに仲間を頼らなくなった青峰のプレイに否定的です。
一方で黄瀬は、IH準々決勝での独白でわかるとおり、青峰のプレイに憧れの気持ちがあり、肯定的です。
 
ここで、先程までは比較的意気投合していたかに見えた黒子と黄瀬に若干の思想の食い違いが発生します。
 
練習試合後の公園シーンで火神と黒子は「いつか決別するっスよ」と予言した黄瀬。
 
「火神はいつか(その実力ゆえに)チームでは浮いた存在となる」
「そのとき火神は今までと同じでいられるんスかね」
 
これらの台詞を見る限り、黄瀬の中ではかなり客観的かつ的確に、中学時代の青峰の葛藤や、黒子と青峰との決別に至るまでの経緯、黒子がキセキの世代たちへ抱いていた心情を把握・分析できているように見えます。
 
過去編ではあまり描かれてなかったですが、ひょっとしたら黄瀬自身も桃井のようにあるいは、キセキの世代たちの突出した才能覚醒に伴い変容していくチームを寂しく思いながらもどうしていいか分からないまま立ち尽くしていた時期があったのかもしれません。
 
ですが青峰との決別、そしてキセキの世代から心離れする黒子の心情を把握できてはいても、そちら側に歩み寄ることは叶いません。
なぜなら黄瀬自身が、青峰たちと同じキセキの世代側の立場だからです。
 
5on3のストバスでは「最後に黒子っちと一緒にバスケできたしね」と嬉しそうだった黄瀬でしたが、そんな黒子と繋がっていられる唯一の選択肢が、黒子の「火神の影となってキセキの世代を倒す」という気持ちに応えることでしかないのです。あの公園シーンこそがひょっとしたら、全中後姿を消した黒子への執着を断ち切り、黄瀬自身が「黒子っちとの決別」を果たしたシーンなのかもしれません。
 
しかしながら練習試合では黒子と火神の「光と影」としての連係プレイを見せつけられ、ふっきれたはずだったのに、やはり黒子がかつての「光」でもあり憧れのプレイヤーである青峰のバスケを「好きじゃない」と発言するのを聞くと、複雑な気持ちがあるのかなとそんな風に思える一コマなのでした。

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